尾辻かな子氏 ロング・インタビュー

By Yuki Keiser May 2006


尾辻かな子

1. 日本の状況

~第二次LGBTブーム到来?!~

Profile: 尾辻かな子
1974年大阪府出身。前大阪府議会議員。2003年4月、堺市選出の大阪府議会議員選挙で当選する。2005年8月に、著書『カミングアウト』を講談社で出版し、日本初の同性愛者としてカミングアウトした政治家となる。2007年5月、民主党が7月の参院選全国比例区で公認した。結果は落選してしまったが、同性愛者であることを公表して国政政党から国政選挙に出馬する初めての政治家ともなった。http://www.otsuji-k.com


★参議院選挙のインタビューは、こちらを参照。

――最近、セクシュアル・マイノリティの第二次ブームが到来したような気がするのですが、尾辻さんはどう感じていますか?

はい、急激に盛り上がってきていると思います。

――日本のメディアでも最近とくにLGBTの取り扱いが多く、もちろん古い固定観念的なイメージに縛られている番組制作者や記者などもまだまだ多いのですが、メディアによっては良くなっている気がするんですね。それに関して、尾辻さんはどう捉えていますか?

うーん、色々だと思いますね。テレビではまだ同性愛者に対して「ホモ」や「レズ」という言葉を平気で使うところもありますし。また、今年日本テレビで放送された『アンテナ22』(日本テレビ系列で2005年から2006年9月まで放送されていた、ドキュメンタリー・バラエティ番組。2006年5月15日に「『真夜中の新宿二丁目』自由奔放な魅惑の街」と題し放送、「怖いもの見たさのあなたに送る禁断のツアー」などのキャッチを含め、LGBTをセンセーショナルに紹介)。

全国ネットのプライムタイムでLGBTについてあんな誤ったステレオタイプ的な番組が流されてしまったら、私たちのイメージ・ダウンは大きいですね。都会ではある程度の正確な情報は得られるので、まだいいですが、何の情報も得られない地方にあのような番組がボーンと出ると、同性愛者についてかなり偏ったイメージが定着してしまうんですよ。これは問題ですよね。

――そうですね。あれはびっくりするぐらいひどかったですね。しかも社会に与えるインパクトは大きいですし。あの番組を観ていて、大昔にタイムスリップした感じがしました。明らかに異性愛者のオッサンがつくった番組ですよね。

『アンテナ22』のような、セクシュアル・マイノリティに対して配慮のない番組が放送されたら、私たちは絶対に沈黙せず、アクションを起こし続けることが大事だと思います。

――テレビや週刊誌などはともかく、最近の女性ファッション誌に関してはゲイフレンドリーに見えるのですが。意外にもレズビアンに好意的ですね。とくに『VOGUE』、『ELLE』、『marie claire』などは、同性愛者についてのニュースを取り上げたりしていますよね。映画『ブロークバック・マウンテン』や『トランスアメリカ』、エルトン・ジョンの結婚などのお陰で、今年はとくに同性愛者に関心が集まりましたし(※エルトン・ジョンの結婚については、英国における「シビル・パートナーシップ」の権利)。

そういえば『日経流通新聞』読みました? LGBTマガジン『yes』などを取り上げた、LGBTマーケットに関する記事です。日本の経済新聞が、LGBTマーケットを大きく取り上げたというのは画期的ですね(※2006年4月19日の『日経流通新聞』に「『LGBT』流行先取り」という記事が掲載。2007年2月28日、『日経ビジネス』にも「巨大市場『LGBT』とは」という記事が掲載された)。

――そういった動きも含めて、第二次ゲイブームがあるとしたら、その理由は何だと思いますか?

そうですね。まず前回のゲイブームから12年経って、期が熟してきたんじゃないかと思います。

――前回のゲイブームの火付け役、きっかけは何だったと思いますか?

当時、女性誌がゲイを「オシャレな存在」として、取り上げたんですよね。たとえば『CREA』とか。

――その中にはレズビアンも含まれていましたか?

雑誌ではゲイ中心でしたが、ムーブメントにはレズビアンも参加していました。まず、掛札悠子さんと作家として現在も活躍している伏見憲明さんらが94年に同性愛者のキャラバンを行いました。そうした活動に女性誌も乗り、その後掛札さんの本を読んだ歌手の笹野みちるさんが、カミングアウトを決意したんですね。95年の彼女のカミングアウトは、レズビアンにとっても社会にとっても、インパクトが大きかったと思います。
(※掛札悠子さんの本:『「レズビアン」である、ということ』河出書房新社、1992年)
(※笹野みちるさんの本:『Coming OUT!』幻冬社、1995年)

そうやって90年代に、日本の第一次ゲイ・レズビアンブームというものが起こったのだと思います。
それを直接見てきた私たちの世代が、いま30代になり社会的活動がめいっぱいできるようになって、第二次ゲイブームと呼ばれるものをつくっているのかなと思います。伏見さんが言っていたのですが、「ちょうど干支がひとまわりして、なんか変わってきた」というところですかね。

――なるほど。

だから、そういう意味でいくと、いまの大学生たちの活動が期待されているんですよね。とくに「GLOW」(※早稲田大学公認のLGBTのためのサークル)や、ICU(※国際基督教大学)がそうです。ICUなんてキャンパスに私の講演会のポスターをベタベタ貼ってくれたんですよ(笑)!

――え?! 大学の校舎に貼ったんですか?

そう。校舎の入り口から学食のテーブルの上にまで(笑)、バンバンバンバン! こんなに貼っていいのか?! って(笑)。そのぐらい、今は学生も元気になってきていますから、あとひとまわりですよ。いまの大学生がうまく育ったら、この子たちが30才になった時、日本は必ず変わると思いますよ。

あとやはり、90年代半ば以降インターネットが爆発的に普及したことによって、マイノリティ同士が結びつけられたことも、絶対に重要ですよね。 そのお陰で海外のニュースもどんどん入ってきますし。

――そうですね。同性婚やパートナーシップなどのニュースに刺激を受けますね。
ではブームやムーブメントとは別に、現在の社会におけるセクシュアル・マイノリティの状況、主に法律面などについては、尾辻さんはどう感じていますか? 海外と比較して、日本の特徴とは何ですか?

そうですね。概要的にいうと、日本で「LGBT」といった場合、「T」すなわちトランスジェンダー(性同一性障害・GID)と呼ばれている人たちの認知度がじつは一番進んでいるんですね。何故かというと、『3年B組金八先生』というメジャーなドラマでトランスジェンダーのキャラクターが取り上げられ、その役を人気女優がこなしたので、あっという間に世間に広がったんです。それで競艇選手の安藤大将さん、元女子サッカー日本代表選手の水間百合子さんなど、スポーツ 選手らもGIDだとカミングアウトして、さらに政治の世界でも上川あやさんが区議会委員に当選したこともあり、トランスジェンダーが一気に話題をさらったんです。(※GID: Gender Identity Disorder の略で、性同一性障害の意味)。

――トランスジェンダーが日本で受け入れられやすい理由のひとつが、「障害者」として見られているからとよく聞きます。逆にレズビアンとゲイは「快楽主義者」のように捉えられがちなので、メディアも真面目に取り扱ってくれないと。どう思われますか?

「性同一性障害」の「障害」という言葉が人々に受け入れられやすい要因のひとつになったと思います。条件は厳しいですが、戸籍を変える法律までできましたし。

この前、兵庫県で7才の男子児童が女子児童として学校に通った件(※播磨地域の小学校2年の男児がGIDと診断され、女児として学校生活を送ることになる。2006年5月18日付けで神戸の新聞殆どに大きく取り上げられた)。関西ではものすごい注目を集めたんですよ。『神戸新聞』では一面トップ、しかも関西の夕刊ニュースでもトップで扱われたんです。私のところにも取材がきたのですが、皆さん性同一性障害と同性愛の違いをあまり理解されていないようで、私に「診断書はありますか?」とか聞いてくるんですね(笑)。他の国は、同性パートナーの法的保証など、同性愛者が先に権利を獲得してから、より人数としてマイノリティであるトランスジェンダーが主張を始めるというパターンが多いですね。
「性同一性障害」という言葉が爆発的にマスコミに流通したことによって、レズビアンとゲイを超えた認知が構築されたようです。行政も、法律ができたので性同一性障害に関しては人権啓発を行うようですが、同性愛はなかなかその中に入らなかったりします。

――なるほど、海外とは逆なんですね。

けれども、じゃあGIDの人が生きやすいかというとそうではありません。健康保険が適用できず手術にお金がかかりますし仕事の問題もあります。とにかく言葉の認知だけは進んでいるんです。

――いまの日本の社会でレズビアンとしても生きるのは、まだ厳しいように感じるのですが、尾辻さんはどう思いますか?

そうですね。同性愛者といっても、レズビアンとゲイの間にある差は大きいんですよ。その理由は、日本はまだ男女平等の指標でいくと、とても低い国なので。たとえば女性の平均生涯賃金を、男性の場合と比べた時に、女性は6割強しかないというような問題があります。また労働の流動化がすごく進んでいて、その調整弁になっているのが、女性と若者なんです。女性の非正規雇用、つまり正社員じゃない人たちが50%を超えたんですよ。女性の半分は、社会的保証のない不安定な短期雇用で働いているということです。いわゆる女性の貧困化が進んでいるんですね。ゲイの場合は性別役割分業の元の給与体系があるので、男性には一家を養える給料が支給されるんです。したがって、ゲイ男性のカップルは所得の高い二人が重なり、可処分所得も多く、旅行、趣味、服などにもお金を使うので、ゲイマーケットが成立するんです。ゲイといっても様々な人がいるので、全ての人がこのような図式にあてはまるわけではありませんが、レズビアンは、私のまわりを見てもそうですが、貧困で、不安定な仕事の方が人が多いように思います。ただ、東京は別だと思います。女性と男性が同じ賃金体系の外資系の会社も多いですし、女性がキャリアを築ける仕事も多くありますから。

――東京でも仕事面で成功しているレズビアンも存在しますが、アメリカでいう「パワーレズビアン」はいないですよね。(※「パワーレズビアン」とは、アウトしつつ仕事でも成功し、周りの目を気にせず独自の世界とライフスタイルを貫くレズビアンの意。欧米発祥の呼称で、ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』シーズン2の18話にも登場する。)

そうですよね。先の繰り返しになりますが、女性の貧困がレズビアンの貧困として現れるので、まだまだ経済的にも社会運動に力を注ぐ余裕がない感じがしますね。

――経済面とはまた別ですが、日本のレズビアン・シーンに関してはどう思いますか?

日本のレズビアン・シーンは、映画でいうと『ウーマン・ラブ・ウーマン』(※2000年に公開された、シャロン・ストーンやクロエ・セヴィニー出演のレズビアン映画)で情報が止まっていると思います。 その後の、 『D.E.B.S.』(邦題『恋のミニスカウエポン』)とか、『Saving Face』(邦題『素顔の私を見つめて』)はいまいち知られていない気がします。『Lの世界』も、知る人ぞ知る。大半はまだ知らないですね。もったいないです。

――『Lの世界』は、初めてのレズビアン・ドラマとして嬉しいですよね。(※『Lの世界』は、LAを舞台にした、登場人物がほぼすべてレズビアンという前代未聞のアメリカン・ドラマ。日本ではFOX LIFEで放映(ソニー・ピクチャーズエンタテインメントジャパン配給)。)

そう、嬉しいですよ。だって日本は…『指』なんですもん!(笑)。松本清張の時代なんですものぉ(笑)。(※『指』は、2006年2月21日21時に日本テレビにて放送されたドラマ。原作松本清張、キャスト後藤真希、高岡早紀など。「大女優になるためだったら何でもするわ! レズでも、殺人でも」のセリフなど多くの問題点を含む、レズビアンをドロドロに描いた昭和テイストなドラマ)。

――(笑)本当に古いですよねぇ! 今頃誰があんなチープな作品を思いついたんでしょうね! レズビアン・サイトの掲示板でコメントを見ていたら、かなりのひんしゅくを買っていましたよ!

そりゃそうでしょう。

―― 「あの犬のアップはなんなんだって」って書いてありました(笑)。あのチワワの撮り方、笑えますよね(笑)。

ははは!(笑)。ハッテンができるレズビアン・バーなんて聞いたことないですよね(笑)。


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