尾辻かな子氏 ロング・インタビュー

By Yuki Keiser May 2006


尾辻かな子

3. 教育

~子どもたちをどう守るか~

Profile: 尾辻かな子
1974年大阪府出身。前大阪府議会議員。2003年4月、堺市選出の大阪府議会議員選挙で当選する。2005年8月に、著書『カミングアウト』を講談社で出版し、日本初の同性愛者としてカミングアウトした政治家となる。2007年5月、民主党が7月の参院選全国比例区で公認した。結果は落選してしまったが、同性愛者であることを公表して国政政党から国政選挙に出馬する初めての政治家ともなった。http://www.otsuji-k.com


――とても難しい問題かと思うのですが、教育に関して現在何か取り組んでいますか?

そもそも学校教育の中に同性愛者の存在を入れることがとても難しいんですね。性同一性障害は、性同一性「障害」だから、入れるんですけどね。性教育の中でも同性愛に触れるのは非常に困難です。議会の中はやっぱり保守的な議員のほうが多いから、私一人の声よりも、反対の声の方が圧倒的に多いんです。さらにみんなの意識の中では、「同性愛者のことなんて喋ったら、同性愛者が増えてしまうじゃないか」とか「子どもたちがそんなものに目覚めたらどうするんだ!」というような見方が主なんです。「目覚める」とか「同性愛に走る」など、まだ悪いこととして扱われているので、その固定観念を覆すのはなかなか大変です。

ただ、取り組めそうなのが健康福祉です。私は去年健康福祉(委員)にいたのですが、その中で自殺予防というのが一つの大きな課題でした。日本では毎年3万人もの自殺者がでています。交通事故で亡くなる人は1万人にも満たない中、その何倍という人が自ら命を絶っているのです。一番多いのは中高年の男性なのですが、若い人も大勢含まれています。そして若い人の自殺の原因のなかには、性的指向もあります。正しい情報も得られない中、孤独と自己否定に苦しみ自殺を図ろうとする率が高いという結果が出ているので、今年はそれに取り組みたいと考えています。当事者の子どもたちをどう守っていくのかが問題ですね。性同一性障害のみならず、セクシュアル・マイノリティというくくりの中で子どもたちが安心して学校に通える研修を行わなければいけません。たとえば保健室をLGBTにとっても安全なセーフ・プレイスに変えていくといったことが必要なんじゃないかと思います。


――そうですね。「男と女が自然」「世の中には異性愛しか存在しない」という価値観が、当然のように前提としてあるうえでの「教育」ですから、そうでない子供は「自分はおかしいんじゃないか」と、一人で悩んでしまうんですよね。「この世には異性愛者だけではなく、ゲイやレズビアン、トランスジェンダーも多く存在していて、病気でも悪いことでも何でもないんだよ」ということを、性教育など、学校教育の中でも教えることができれば、LGBTの子供たちの息苦しさも随分と楽になるでしょうね。

そうですよねぇ。この前『アイダホ』の時にも、それは言ってきました。「とにかく現実に目を向けてください。実際子供たちが自殺を図ろうとしていることを放っておいていいのですか?」と。また、イデオロギー対立の空中戦にならないよう、「現実としてこの子どもたちを学校の中でどう守っていくのかということを考えてください」と。(※『アイダホ』(IDAHO)とは、LGBTの人権問題を考える上でホモフォビアについて、多くの人に知ってもらうことを企画する会。毎年世界中で5月17日に催され、日本では2006年から開始。Act Against Homophobia ブログ

――反応はどうですか?

うーん…。まだないですねぇ。健康福祉であれば、自殺予防というのが完全に目標としてあるので、府民の健康を守るため、まだ聞いてもらえる余地はあるのです。ただ教育に関しては、教育理念とイデオロギーが関わってくるので複雑です。また日本の教育は中央集権的で、文部科学省、国がすべてを決めるのです。都道府県市町村はそれを守るだけ、というほど中央の力が強いんですね。そういう意味では教育に取り組むのはとても困難です。実際今でも性教育に対しては、「同性愛なんてけしからん」「コンドームについて教えるなんてけしからん」という言葉を頻繁に聞くのが現状です。

――それに一般の人は、ゲイとレズビアンはそんなにいないと信じていますよね。

そうですね。今までゲイやレズビアンの議員がいなかったわけじゃないのに。実際オープンにした議員は私ひとりしかいないんですよ。今後政治の世界でも、もっとオープンにする人も増えて、社会と世論への働きかけ両方に力を注いでいけば、世論も変わってくると思います。私は府議会にはあと1年の任期なので、残りの時間で教育の中で何かしらの成果を残したいと考えています。

――実際カミングアウトされてから、他の政治家の方から声かけられました? 「私もそうなんです」とか。

カミングアウトする前から繋がりがあったので、その後はとくにないです。

――同性愛者の政治家はどのくらい存在していると思いますか?

どうなんでしょう。うーん…わかっている人数は非常に少ないです。というのも、そもそも女性の議員はものすごく少ないですし、若い人はもっと少ないんです。平均50~60代の男性がほとんどですから。未婚の女性議員もいますが、その人たちがレズビアンかどうかはわかりません。セクシュアル・マイノリティのアイデンティティをはっきりと持って関わる人は、これから出てくるのだと思います。

――LGBTなど性的指向による差別は法律ではまだ禁止されていないのですが、近い将来それは実現できると考えていますか?

じつはすでに「人権擁護法案」という法案が出ているのですが、衆議院解散で廃案になったのです。 人権擁護法案の中には、性的指向も含まれていて来年の通常国会でもう一度出てくると思います。それが成立すれば、性的指向による差別の禁止が明記されるはずです。ただ、その人権擁護法案自体にはいろいろと問題があるんです。たとえば実効性がないですとか。そもそも管轄している法務省が、たとえば刑務所や入国管理局などで人権侵害をしている。そんなところに持ってきても、これは拘束力が全然ないんじゃないかと。そのため、もっと独立した機関で行わないと擁護できないのではといった議論を呼んでいます。またマスコミに対しても、規制の問題などがあり、批判を浴びて廃案になったのです。性的指向が入っていることは評価するけれども、それ以外のところがまずい制度であれば、それは私も賛成しかねるのです。

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