尾辻かな子氏 ロング・インタビュー

By Yuki Keiser May 2006


尾辻かな子

5. サンフランシスコ・ゲイプライド

~もうみんな隠れていない~

Profile: 尾辻かな子
1974年大阪府出身。前大阪府議会議員。2003年4月、堺市選出の大阪府議会議員選挙で当選する。2005年8月に、著書『カミングアウト』を講談社で出版し、日本初の同性愛者としてカミングアウトした政治家となる。2007年5月、民主党が7月の参院選全国比例区で公認した。結果は落選してしまったが、同性愛者であることを公表して国政政党から国政選挙に出馬する初めての政治家ともなった。http://www.otsuji-k.com


尾辻かな子


――尾辻さんは今年アメリカに3週間滞在し、サンフランシスコのゲイプライドに初めて参加されたんですよね。いかがでしたか?

トランスマーチ、ダイク・マーチ、プライド・マーチと、それぞれのマーチを見てまず浮かんだのは、「お祝い」という言葉ですね。実際サンフランシスコでは「セレブレーション」というのが、キーワードだったそうです。「私たちが私たちであることのお祝いをしているんだ!」っていうのがすごく伝わってきました。
で、ひとつすごく印象的だったことがあるんですけど。私その…土曜日って平日じゃなかったから、あんまり化粧をしていなかったんですよ(笑)。それにすごくカジュアルな格好だったんです。でも、ナビゲーターの人が色んなセレモニーに連れて行ってくれたので、私が「こんなたくさんの人に紹介されるんなら、ちゃんと化粧してくればよかった」と言ったら、その人が「プライドの日は、『自分がありのままの自分でいること』を祝う日なんだから、無理に装うことはないよ。本当に『これが自分だ』と思える格好で参加したらいいんだよね」っておっしゃったんです。そこで初めて「ありのままでいること」をお祝いするのがプライドなんだなぁっていうのを実感しました。皆挨拶の後に「ハッピー・プライド!」って言っていましたし。

――そうなんですね。日本にも東京・札幌・大阪などでパレードはありますが、それらとアメリカのLGBTプライド・マーチの違いについてはどう思いますか?

アメリカで一番強く感じたのは、「もうみんな隠れていない」ということですね。
つまり日常の生活の中でもアウトして生きている。これはどこの地域・地方に行ってもそうだと感じました。たとえば大学教員でも、アウトして生きている人が普通にいる。また、たとえ同性婚に反対している人たちでも、「あなたの友達にゲイやレズビアンはいますか?」って質問すると「もちろん」っていう答えが返ってくるんですよ。それが私にとっては一番の驚きでしたね。
日本で講演会を開くと、参加してくださる人の中にも「今まで同性愛者に会ったことがないし、セクシュアル・マイノリティの人たちを見たことがない」という人が多いのですが、アメリカの若い世代にとってはゲイやレズビアンが自分たちのまわりにいるのは、当たり前になっているみたいですね。同性愛者の数は日本とは変わりないんですが、アメリカのほうがアウトしている人口が多い分、存在感があるんです。だからパレードからは「自然体でアウトしている人たちが、街のお祭りに参加している」という印象を受けましたね。

――サンフランシスコでは100万人ほど集まるんでしたよね?

細かい数字はわかりませんが、大阪では毎年10月に市民のお祭りとして「御堂筋パレード」っていうものがあるんです。それにだいたい100万人程度集まるんですが、感覚としてはサンフランシスコにもそのくらいの人たちがいましたね。いたるところゲイやレズビアンだらけで、ダイク・マーチでは1万人ほどのレズビアンが歩くらしいんですよ。だから先頭集団がスタートして、その地点を最後尾が通過するまで1時間もかかるんです。ダイク・マーチにはとくにフロートはなくて、みんなの服装もそこまで派手じゃない、ふっつう~の人たちがふっつう~に歩くだけなんですよ(笑)。日本では、まだ孤独感を抱えている同性愛者が多いと思うのですが、あれだけたくさんの人たちを見るとね。なんだか本当に「いったい自分は今まで何に悩んでいたのか。レズビアンってこんなにたくさんいるじゃないか!」って圧倒されました。「海を隔てた向こうの国にこんな世界があったとは…!」ってね。

――それは圧倒されますよね。私が初めてロスのプライド・マーチを見た時は、アメリカではニューヨークやサンフランシスコと比較して小さい規模にもかかわらず、その参加人数の多さや、メジャーな企業や警察までもが参加しているのを見て感動しましたね。

なんかもうすごくてね、日本で悩んでいる人がいたら「お金を出してでも見にいって来るのも手だよ」って言ってあげたいですね!

尾辻かな子


――ほかに何か日本とアメリカの違いについて感じたことありますか? 

そうですね、日本とアメリカの違いについてもう一つ感じたのは、やはり歴史や風土、文化、宗教の違いですね。たとえば、アメリカでは「ゲイリベレーション」と呼ばれる運動が、1960年代に起きた公民権運動の後にすぐに始まっているんです。ところが、日本のゲイリベレーションが起きたのは、アカーの活動やエイズ予防法の反対運動など90年代から。もちろんそれまでも運動してくれていた人がいて、その人たちのおかげで90年代に新しい波が起こったのですが、メインストリームで起きたのはそれからなんです。
日本とアメリカのゲイリベーションには30年もギャップがあるんですよね。日本でも全共闘世代の運動はありましたが、その時アメリカと同じようには運動が発展しなかった。その分だけやっぱりスタート地点が全く違い、歴史が違うから、一概に比べることはできませんね。
なので、そもそもパレードにしても、日本はまだ多くの人がその政治的な意味やお祝いの意味を捉え切れていないと思うんです。参加者も皆、アウトして生きることの難しさを抱えながらやっているのが現状なので、まずはまだまだ内なるホモフォビアとの戦いをしなきゃいけない時期なのではないかと。アメリカとは規模も違いますがそこにはやはり歴史や現状の違いがあり、それを踏まえると日本はまだ、パレードなどの運動の場を持ち続けることに、とても意味があると思います。
アメリカだって、そうやってあそこまで大きくなった。だから日本もこれからだと思います。

――そもそも、日本にはデモがあんまりないですしね。そういったところに文化や国民の気質の違いが現れているのかもしれませんね。

そうですね。LGBTに限らず、日本では他の団体もほとんどデモはしていないですよね。日本でのデモは労働組合が中心です。だから「労働組合に入っていない人は関係ない」っていう。
要は一般の人を巻き込んでのデモができないんですよ。そもそも日本の文化には「自分たちの権利を闘って取っていく」という習慣はあまりないですから。
日本の文化の中には「村八分」という言葉があるように「人と違ってはいけない」という考え方がどうしても根強く存在するんですね。なので、「みんな同じ」というその調和を壊し、異議を申し立てていくということに恐怖心を抱きがちです。なぜならそれが日本で生まれ育った人が持っている気質のようなものだから。これからは、そこから飛び出していくことが必要なのではないかと私は考えているんです。


――なるほど。またアメリカでは、プライドや映画祭に大手のスポンサーが付いていることに驚いたのですが。

そうですね。航空会社・銀行などが当然のように付くんですよね。実際企業のフロートはとても多いです。LGBTを積極的にサポートするのは「企業イメージにプラスになる」なんていう考え方は、本当にすごいと思いますね。日本ではどちらかというとマイナスなイメージですよね。

――そうですね。サンフランシスコのプライドの写真を見ていたら、『Google』がマーチしているのを見て素晴らしいと思いましたね。ところで、サンフランシスコに「ピンク・トライアングル」というのがあると聞いたのですが、これはどんな団体ですか?

ドイツのナチスの時代、同性愛は禁止されていたんです。ユダヤ教の人たちがダビデの星のマークを服の上に付けさせられたのと同様に、同性愛者はピンクの三角のマークを付けられ抑圧されていたんですね。そういった歴史を二度と繰り返さないようにと、プライド・マーチの時は、サンフランシスコの丘に大きなピンク・トライアングルのマークを置くんです。またナチス時代以外にも、これまでゲイであることで迫害に遭った人たちは多いので、そういう人たちのことを忘れてはいけないという意義も含まれているのです。実際、市長や国会議員、州議会委員、市議会員なども集まるんですよ。

尾辻かな子


――サンフランシスコのプライドでは日本人の参加者は多かったですか?

ダイク・マーチの時に、サンフランシスコ在住の日本人と何人か会いました。

――その人たちはプライドについてどう思っていましたか?

「初めて参加した時は、とにかくその規模にビックリした」と、みんな言っていました。でも今ではもう慣れていて「今日はみんなが集まる日だから、私たちも行って一緒にご飯食べたりしている」っていう感じでした。

――日本在住の私たちには想像しにくいと思うのですが、LGBTにとって、サンフランシスコはそんなに生きやすい場所なのですか?

私が出会った日本人のレズビアンはみんな生きやすいと言っていました。

――その人たちはLGBTとしての生きやすさを求めて、サンフランシスコに渡ったんですか?

そうです。だから親に「帰って来い」って言われても「嫌!」って言っているらしいですよ(笑)。

――なるほどね(笑)。日本でのパレードの役割や効果についてはどうお考えですか?

ひとつは、見える存在としてLGBTのヴィジビリティを高めることである思います。日本では一般的に「常識のある人」と言うとき、その「常識」と言われる中に、LGBTの存在は含まれていない。実際にLGBTの存在が見えていないからわからないんですよ。だから「テレビの中の人たち」「新宿二丁目の人たち」程度にしか感じていないんです。まさか自分の子供や親戚、同僚、学校の中など、身近にいるなんて想像もしていない、という現状がある。しかし、パレードで多くの人が歩いているのを見ることで、その常識が変わると思います。また、こうやってアウトしてヴィジビリティを高めていくことで、他のアウトできない当事者を勇気づける。パレードに行く勇気がなくて一緒に歩けなくてもきっとどこかで見ているんです。みんなが楽しくパレードすることで、「ゲイやレズビアンであることは恥ずかしいことでもなんでもないんだ」と勇気づけられ、生きる力になるんです。普段私たちは私たちであることに対して抑圧されていることが多いし、良く語られることがあまりない。でも今日は私たちが私たちであることをお祝いしよう、ということです。パレードの大きな役割は「ヴィジビリティ」と「お祝い」、その2つだと思うんですよね。

――パレードは世の中を変える手段であるとよく言われますが、日本でもそうなりうると思いますか?

そうですね。本当にそう思います。ひとりで世の中なんてなかなか変えられないですよね。でも、日本にも変えたいと思っている人たちはすごく多い。だから一番大事なのは行動することだと思うんですよ。その第一歩は、パレードに参加して一緒に歩くことじゃないかな。

――話は変わりますが、その後日テレの『アンテナ22』に関してはどうなりましたか?

『アンテナ22』ね…。「遺憾に思います」という、なんだか他人事っぽい回答書が来てがっかりしました。私たちの想いはあまり伝わっていないと思うので、残念ですね。ホモフォビアと闘うのは、身を磨り減らしますから、バランスも考えなければいけないですね。たとえるなら「北風と太陽」ですね。北風ばかりにあたっていると滅入ってしまうので、太陽も重要。アイダホなども北風路線ですから、そういう意味からもパレードは太陽ですよね。

――最後に、今回サンフランシスコのパレードで最もいい思い出は何ですか?


いい思い出は山ほどありますが、ドラマ『The L word』のクリエーター、アイリーン・チェイケンや、『クイア・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ』のホストであるハニー・ラブラドールに会えたのが最高でした!(※ストレートのダサい男性を、オシャレなゲイ5人が改造するコンセプトの米番組。カイリー・ミノーグなどがゲスト出演したり、本も出版されるほどの人気ぶりで、途中レズビアンのホスト、ハニーも加わる)。

――良かったですね! それでは、今後も活動を頑張ってください!


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