『アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル』

by Yuki Keiser May 2007


アジアン・クィア映画祭

1. 未開発のフレッシュなパワーが源

Profile

大石夏絹
1998年に友人らと制作した自主制作映画に参加したのがきっかけとなり、映画制作に興味を持つ。その後も会社員として勤務する傍ら他の監督の自主制作映画を手伝い続け、2004年に『NO TIME NO PLACE』を初監督する。2007年、iri氏と第一回 『アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル』 を開催する。

iri
1999年より、等身大のレズビアンたちの日常を描いた作品を作り続け、現在までに5作品を監督。3作目となる 『3秒の憂鬱』 は世界15ケ国 25都市以上で、続く4作目の 『鼻歌をうたう私と颯爽とあるく彼女』 は世界18ケ国25都市以上で上映された。最新作は、今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映された 『その月が満ちるまで』。2007年、大石氏と第一回 『アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル』 を開催する。
www.iri-film.com

『アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル』
『アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル』 in 福岡


アジアン・クィア映画祭


今年4月に日本で初めての 『アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル』 (AQFF)が東京・下北沢のシネマ・アートンで開催された。その主催者はレズビアンのインディーズ監督でもあるiri氏と大石氏だ。東京では今年16回目をむかえる 『東京国際レズビアン&ゲイ映画祭』 が毎年開かれるなかAQFFを始めた理由について両氏はこう語る。「2000年頃に自分たちの作品を上映してもらった韓国の映画祭がとても暖かい雰囲気で感動したんです。東京の映画祭は規模が大きい分、自主映画の上映は難しいから、日本でも韓国の様な手作り感のある映画祭を開催して、インディーズの作品を上映したいと思いました。また、アジアのクィア映画も欧米作品に比べて観る機会が少ないと感じていたので、インディーズとアジアにフォーカスを当てたフィルム・フェスティバルをやってみようと決意しました。2005年に台湾のアジアン・レズビアン映画祭に参加したんですけれど、その映画祭ではレズビアンの監督であるヤウ・チン氏がプログラマーを務めていました。この映画祭の影響と、彼女からの応援はとても大きなものでした。」とIRI氏は説明する。

最近では地方などでも様々なクィア映画祭が増えつつあるなか、このフェスティバルの特徴はインディーズの作品が多い点。彼女たちがインターネットやアジア各国の自主映画監督たちとのコミュニケーションを通じ、主に2000年以降のアジアの映画を一つ一つ丹念にチェックし発掘した作品が満載だ。また、アジア、クィア、インディーズと、それぞれの要素が未だ発展途上という、「3つ組み合わせた未開発のフレッシュなパワー」なところもポイントである。


アジアン・クィア映画祭


この映画祭をオーガナイズする前に、彼女ら自身、インディーズ・レズビアン映画を発表している。IRI氏は99年に始め、その理由は「当時、レズビアンはまだまだ見えない存在だった。それが悔しかったんですよ。その頃のステレオタイプなレズビアンは悲観的だったり、ポルノチックなイメージがとても強かったので、『自分達は普通に生きているんですよ』 というメッセージを、リアルな姿を見せながら伝えたくなったんです」と話す。

大石氏は、今年AQFFで上映された 『NO TIME NO PLACE』 が処女作だが、その前に友達10人ほどと短編を作ったことがある。その後、iri氏の作品や他のクィア作品の手伝いなどを行い、今回初めて監督を務めることに踏み切った。

上映されたiri氏の映画 『その月が満ちるまで』 は、自身の2丁目デビューの経験に基づいて作られている。「今から12年前、私は20歳で笹野みちるさんがカミングアウトした時期だったんですね。自分もレズビアンだと自覚してきていたので、情報を得たかったんです。そしたら、たまたまティーン向けの一般誌で笹野さんが表紙の 『フリーネ』 というレズビアン雑誌が紹介されていたんです。すぐにそれを買って読んでいたら、映画祭のボランティアを募集しているメッセージが載っていたんです。ドキドキしながら電話をかけて、ミーティングに参加してみたのが始まりでした。その後スタッフに2丁目に連れて行ってもらったんですが、最初は怖かったんです! そんな当時のワクワク感と甘酸っぱい想い出を最新作で描写しようと思ったんですよ」。ただ、青春の甘酸っぱいストーリーだけでなく、当時の自分の様に、まだ2丁目などに足を踏み入れる勇気がない女性達のためにエールのメッセージも送りたいという。また、「2丁目を単にバラ色に描くのではなく、希望がありつつ切ない気持ちも味わう町であるよ、というのを伝えたかった。ただ、踏み込むと、そこから繋がって広がる世界はあって、そのうち良い恋愛も経験出来る、と。」この作品は今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも上映された。


アジアン・クィア映画祭/その月が満ちるまで

『その月が満ちるまで』


大石氏の作品は、日常生活のさまざまなことに積極的になれない主人公が、ある日飼い猫がいなくなったと同時に、同じ名前を持つ謎の女性と出会い不思議な体験をするというファンタジックなストーリー。

東京を舞台に、普通のレズビアンがリアルに描かれているこの作品のメイン・インスピレーションは、「私は元々猫に女性を感じるところがあるんです。それと、飼い猫とまるで恋人同士のようにすごい仲良しな友達がいたので、その不思議で深い関係を描きたかったんです。その猫は、本当に人間の言っていることが分かるような猫で、二人は会話をしているように見えたんですよ。でも、その猫が亡くなってしまった時は、友達が本当に可愛そうでみてられなかったです」という。「私は、”レズビアン”よりも、”自分”をテーマにしています。この作品もそうですし、これから作ろうと思っている作品もそうです。それが終わったら、違うテーマが出てくると思いますが、とりあえず今のところの計画としては、パーソナルな作品作りですね」。

大石氏も、iri氏同様、様々な自分の経験に基づくという。

アジアン・クィア映画祭/NO TIME NO PLACE
『NO TIME NO PLACE』


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