尾辻氏、参議院選挙を振り返る

Kanako Otsuji x Naomi Matsunaga August 2007


レズビアン/尾辻かな子

6. これからがスタート

Profile: 尾辻かな子
1974年大阪府出身。前大阪府議会議員。2003年4月、堺市選出の大阪府議会議員選挙で当選する。2005年8月に、著書『カミングアウト』を講談社で出版し、日本初の同性愛者としてカミングアウトした政治家となる。2007年5月、民主党が7月の参院選全国比例区で公認した。結果は落選してしまったが、同性愛者であることを公表して国政政党から国政選挙に出馬する初めての政治家ともなった。
www.otsuji-k.com
【リンク】 尾辻かな子氏 国政選挙出馬決定会見
【リンク】 尾辻かな子氏ロング・インタビュー


Profile: 松永尚三(まつなが なおみ)
慶応義塾大学文学部文学科大学院修了。現在、スイス・ジュネーブ州立大学文学部に勤務する側ら、小説や戯曲の数々の本を出版。99年、現代劇『無明長夜』にて、文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作を受賞。 www.matsunaganaomi.com

--今回、小沢代表が理解を示してサポートしてくれたんですけれども、これからもそれは続くのでしょうか? 

O:
政治は、もちろん主義主張も大事ですけれど、もっと現実的に「あなたはそれで何票取ってこれますか? それであなたは勝てるのか?」という世界なんです。つまり勝てる理由や戦略、名簿を持ってます、とか、どこから推薦をもらっています、などといったことによって判断されるんですね。そういう意味でいうと、今回私が3万8千しか取れなかったということは、次に同じようにやろうとしたら、たとえば、「私はここで7万くらいの名簿を持ってます」とか「この人とこの人の支援を合わせたら、10何万にいきます」というような、現実的なものを提示できない限り、動かない。逆にいうと、そういう勝てる要素を持っていけるなら、出られる。今回のような、いわゆるかけ算式の「世の中には同性愛者は3%から10%いるといわれています。全部で言えば、何百万人いるんです」と言うような、そういうざっくりとしたかけ算の世界でのものは、通用しない。名簿や推薦しているところがどれだけのところかっていうような、現実的な素材が必要とされますね。

M:
レズビアンの人で、大きな企業を立ち上げている人っていますよね? いないんでしょうか…。

O:
そういう人はよりクローゼットです。…社会的地位が高ければ高いほど、クローゼットな感じがしますねぇ。

M:
そういう人が自分の会社の社員を動員できればいいんですけどねぇ…(笑)。

O:
だから、同性愛だから良い悪いというのではなくて、もっと現実的な政治世界でのことを求められていますね。

--今回、結果として当選は逃してしまいましたが、民主党としては「尾辻さんを公認した」という事実は、残ると思うのですが、今後、民主党の政策として、この問題に取り組む姿勢というものを求められると思いますか?

O:
それをやってくれる政治家がいるかどうかに懸かっていますね。でも、結局当事者が何に困っているのかということを主張し続けていかない限り、どうしようもないんですよね。だから、「誰かがやってくれるだろう」とか「海外でもこうなったんだから、日本もいつかこうなるよ」とか、そういう話はするけれど、じゃあ、誰がいつ、どのようにしてやっていくのか。あなたはそれに対して何ができるのか、という話になりますよね。やはり本当に困っている人が声を上げないと。以前「同性愛者は何が困っているかわかりますか?」って、人権擁護局の担当者に聞いたら「就職ですかねぇ」って言ってたんですよ…。人権擁護局の担当者でもわからないんですよ、実際に「何に困っているの?」と言われたときに。でも、当事者もじつはあまり言葉を持っていないんです。たとえば、地方の議員のところに会いに行って、「自分は同性愛者なんです」、と言うでしょ? 「どうにか政治で取り上げてください」と。でも、現場の議員が聞くのはやっぱり「具体的に何がどう困っていて、何をどう変えて欲しいんですか?」ということなんです。そのときに、プランが提示できない。「これをこう変えて、こうしてこうしたい」ということが言えなかったら、やっぱり動きようがないわけです。で、そこの部分がじつは全然トレーニングをされていないんですよね。

M:
そうですねぇ。だから性同一性障害の場合は、まずパスポートの性別を変える、戸籍の性別を変えるという身近な目的があったから、それに向けてがんばったというところがあって。同性愛の場合は、今急に同姓婚や同姓パートナーシップ制度などを導入してもらいたいといってもそうすんなりは行くかどうかですよね。「少子化の時代にとんでもない」って言い出しかねないですしね。

O:
たとえば、実際にできることで、教育とか。先生達に研修をして欲しい、と。自分は講師で行くから、それを手伝って欲しい、とか。今学校の中で、性同一性障害を名乗る子ども達はすごく増えていっているんですね。でも、性別違和は性同一性障害の子ども達だけではなくて、同性愛者の子ども達だって持っているわけだから。

M:
多いですよね。パーセンテージでいったらずっと多いと思いますよ。

O:
そうですよね。私は、府議会で各学校で性的な悩みを持つ児童・生徒についての相談件数の数値を調査してくれるようお願いしたんですよ、当時。今までそんな項目で調査されたことはなかったんですが、集めてみたらやはり数字が出たんですよ。だから、そのような具体的な事実から、当事者はまず動いていく必要性があると思っています。

M:
人間の意識というのは明日すぐ変わるっていうようなものではないからね。今の子ども達が大人になった時の時代にどういう風に変わっているかっていうことを、僕たち大人が考えながら実践しないといけませんよね。だからそういう教育っていうのは本当に大事ですよねぇ。

O:
あと、地元の議員に対して有権者は強いですよ。地元の議員に「私は一票持っているんだ」と。だから「私の家族にも近所にも影響力はあるんだ」というところで働きかけると、それなりに効果は出ます。議員は地元の有権者を大切に扱いますから。みんながそれぞれカミングアウトできる場所でしていけばいいと思います。

M:
そうですね。もしそ自分のセクシュアリティが職場の人にばれたら、自分はその会社を辞めるっていうような人が圧倒的に多いですから。辞める必要はないと思うんですけれどね。そんな法律は何もないっていうのをいくら言っても、「いや、辞めなくちゃならない」とか言いますもんねぇ。

O:
陰湿ないじめにあうからですよ。たとえば、部署が変わるとか、変な仕事に回されたりですとか。

M:
そういうことを人事部の部長みたいな立場の人間がするんですか?

O:
するんですよ。するんですけれど、「その理由は同性愛ではない」とくるわけですよ。やっぱり、それがいけないというのはみんななんとなくわかっているから、何かしら理由をつけるんですよね。

M:
現実にやっぱりあるんですか! 被害妄想だとばっかり思っていたけど(笑)。

O:
一概にすべてとはいえませんが、実際にそういうことがある職場も多くあります。

M:
資生堂と富士通は、日本企業の中でも珍しく性的マイノリティにケアがある会社ですよね。自分達は性的指向で社員を差別はしないと、社則できっちりと記しているんですよね。やっぱりそういう会社が増えていかないといけませんよね。

--今後の活動に関しては、どういうご予定ですか?

O:
今後は、初志貫徹というか、一度「国会議員」になりたいと手を挙げて、一回ダメだったからもう辞めたっていうのはやっぱり違うし、幸いまだ32歳なので、この敗北によって政治生命を絶たれてはいないと思っています。

M:
もちろん! これからですよ。

O:
なので次はチャンスがいつめぐってくるかはわからないけれども、チャンスを掴めたときにいつでも動けるようにしていきたいですね。その間は、政治家であることと、活動家であるという二足の草鞋を履き、講演活動などをしていききたいなぁと。

--今回の選挙で今後の課題、そして何より大きな手ごたえを感じたことと思います。まさにこれからがスタートですね。応援しています!


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