『ラスト・フレンズ』の脚本家・浅野妙子さんのインタビュー

By Yuki Keiser June 2008


ラスト・フレンズ

3.FtMとレズビアンの間

――ドラマのテーマのひとつである性同一性障害については、どのようなリサーチをされましたか?

本を読んで勉強はしたんですが、最終的には自分の想像力で脚本を書いた部分が大きいですね。いったん書いてみて、その脚本をいわゆるFtMの方々に見ていただいて意見を伺いました。「ここはおかしい」や、「こういう風には言わない」など、指摘していただいて少し訂正など行いました。(※FtM: 性同一性障害の方で、女性の体に生まれ心が男性の方。Female To Maleの略。その逆がMtF。)

――直接FtMの方と会われたんですか?

私自身は直接会っていないんですけれど、プロデューサーが会って、FtMの方が脚本について討論されているビデオを見せてもらいました。

――FtMの方で、『ダブルハッピネス』(講談社)という書籍を出版した杉山文野さんが瑠可のモデルという噂が一部で浮上していますが、実際はいかがですか?

その方は知りませんので、違いますね。


杉山文野

※杉山文野さんの自身の経験が綴られている書籍『ダブルハッピネス』(講談社)


――瑠可が性同一性障害、または性別違和症候群、レズビアン、などと当初は色んな説が上がっていましたが、浅野さんとしてはどういった設定をお考えでしたか?

私がストレートなのでよくわかっていないのかもしれないのですが、まず、FtMとレズビアンの間にグレーゾーンがあるように感じているんです。たとえば瑠可とタケルとの関係性も、グレーゾーンとして描いています。瑠可が女の部分がまるっきりゼロパーセントではなくて、少しはあるかもしれないという風には私は思っていて、人間ってグレーでいいんじゃないかなと。

――そうなんですね。そもそもセクシュアリティにはグレーゾーンがあって、FtMの方の中でもレズビアンバーに積極的に通う方もいれば、自分を異性愛者と認識してそういう所には一切行かない方もいて、確かに色々ですね。また、思春期のとき、自分がFtMと感じたものの、大人になってレズビアンだと認識した方も周りにいますし、一口では言えないかもしれませんね。

そうなんです。私もきっとそういうグレーな方がいらっしゃると思っていて、瑠可をそのゾーンに入れているんです。今回は性同一性障害という設定が最初に決まっていたのですが、実際にFtMの方の意見を聞いたところ、彼らからすると瑠可はFtMではないと指摘されたんです。その方たちは全員、グレーゾーンにいない、手術を希望するような方だったんです。その指摘を受けて、「性別違和症候群」という言葉のほうが瑠可には適切なのかなと思いました。正確にいうと、私の中では瑠可はFtMとレズビアンの間なんです。

――プロデューサーの最初の意見としては、レズビアンではなく、性同一性障害のキャラクターを希望していた理由は何でしょうか? 

ストレートからすると、まずレズビアンと性同一性障害の区別がいまいちつかないというところがあるんですね。なので、どっちともはっきりは言えないけれど、まずは「性同一性障害」にしておこう、と考えました。というのも、ドラマ『3年B 組金八先生』で、上戸彩が性同一性障害を演じてクローズアップされたので、その言葉のほうが日本では認知度が高いのもひとつの理由でした。また、ストレートの偏見かもしれませんが、「性同一性障害」という言葉は、「悩み」を連想する気がするんです。瑠可という人物は悶々と悩むという設定ということから、性同一性障害のほうがレズビアンよりそういった面で共感を得やすいかなと思ったんです。そういう戦略的な意味もあって、レズビアンというよりも、性同一性障害に傾いたわけなんです。

――最初ドラマを観ていてまだ言葉が曖昧だったとき、瑠可というキャラクターはレズビアンに見える気がしたんですが。瑠可をレズビアンにしようとする案は全くなかったんでしょうか? 

実は、最初に脚本をFtMの方に見せたら、「これってレズビアンじゃん(笑)。レズビアンだと何でいけないの?」と即答されました(笑)。でもなんかやっぱり一般の人によりアピールするときにはこの言葉が必要だと感じたので、言葉として「性同一性障害」という単語を残したいという意図でした。

――最初、瑠可が自分のことを「俺」や「僕」、と呼ばないことなどから、ボーイッシュなレズビアンかと思っていました。どうして、瑠可にあえて「あたし」や「わたし」と呼ばせたんでしょうか?

そうなんです。「俺」と言わないというところも、問題だったんですよね。FtMの方に、自分のことを「私」とは言わないとも指摘されたんです。どうしてあえて「俺」と言わせなかったかというと、そういった知識がない一般の視聴者がドラマを観て、最初から瑠可が自分のことを「俺」と呼んでいると、どうしても自分と同一視しずらい可能性があるので避けたかったんです。いまは瑠可はとても人気があって、性同一性障害でない視聴者もその気持ちを理解してくれて、その気持ちになれると言ってくれるんですよ。単純に、自分を「私」と言ってるからということにも関係してくると思うんですよね。

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