本邦初公開! ダニエラ・シー ロングインタビュー

by Yuki Keiser April 2008


ダニエラ・シー

6. FtMとゲイ男性のカップリングが話題に

――最近、アメリカではホルモンを摂取するトランスが増えているって聞いているんだけれど、実際はどう?

本当だと思う。詳しくは知らないけれど、5年程前からなんじゃないかな。以前、アメリカでは政府や精神科医からの許可が降りないとホルモン治療ができなかったの。許可の条件は1年間、身体はそのままで他のジェンダーとして生活しなきゃいけなかった。でもそのシステムが民営化されて、それまでは性同一性障害であることを政府や医療機関へ証明しなければならなかったりと色々な条件があったのに、一気に、“ホルモン治療がやりたいなら、やれば?”っていうような状況に変わって、ホルモン治療を行う人が増えたんだよね。民営化によって、“需要があればそれに応える。それでマーケットが成立する” っていう資本主義社会のシステムになったわけ。だからいま、医者は患者にホルモンを簡単に与えているよ。


ダニエラ・シー


――それについてはどう思っている?

色んな気持ちを抱いているね。自分の身体を自由に好き勝手できるのは良いことだと思う反面、フェミニストとしては、私たちみんなにとってどういった影響が出てくるのかが少し心配というか…。“女性であることって何? 男性であることって何?”ってね。 たとえばジャンヌ・ダルクのように、自分たちのジェンダーに対して“女ならこうすべき、男ならこうすべき”っていう社会から期待されることを受け入れない人はつねにたくさんいて、逆に社会からの期待や世論に左右されてしまう人もいると思う。たまに、社会に馴染みたいがためにそういうホルモン治療をしようとする人がいるかもしれないと思うんだよね…。まぁでも、自分の友達の中でも胸の切除手術や男性ホルモンを摂取している人が何人かいるんだけれど、みんな本当に幸せに見える。いまのところ、友達の中で後悔している人がひとりもいないから、やりたいことを自由にできるべきだとは思うけれど、でもやっぱり文化的に考えて、そういったことをやる人が急増したりすると、何がそれを引き起こしているのかっていうことを一度ゆっくり考えた方が良いと思う。

自分ももっと若かったとき、ホルモン治療をしようと思ったこともある。でも、急進的な思想を持った両親に育てられて、彼らの考え方は、“与えられたカテゴリーに無理に馴染もうとするより、カテゴライズすること自体に対して反逆的であるほうが良い”っていう考え方だったから、とくに何も変えずにこのままの自分でいても良いかなって思えて。

まぁでも、ホルモン治療がメインストリーム化してきているのは良いことだと思う。みんながジェンダーについて考えさせられるのもね。ジェンダーについての古い固定概念が覆されて、どんな個性あるジェンダーであっても安全でいられる日が訪れたら、本当に良いと思っているよ。

――アメリカではレズビアン・ベビーブームがあったりと、LGBTの権利については日本より30年ほど進んでいるとよく言われるから、アメリカで起きている現象や傾向を聞くのは本当にいつも興味深いよ。

アメリカはLGBTの権利の面で、最先端に立っていることもあったけれど、国全体としてはいまだに同性婚が認められていないというのは忘れがちだね。そういう面ではヨーロッパのほうが進んでいると思う。

ダニエラ・シー/Lの世界
※『Lの世界』S3。左から、ジェニー(ミア・カーシュナー)、ビリー(アラン・カミング)、マックス(ダニエラ・シー)。

――マックスはFtMトランスジェンダーだから、女性と付き合うことを期待されると思うんだけれど、シーズン3でビリーというゲイ男性とのセックスシーンがあったり、シーズン5ではトムっていうゲイ男性と付き合ったりしているよね。そういうストーリーラインはとても面白いなって思っていたら、最近インタビューしたゲイ男性もFtMトランスの人と付き合っていて、アメリカでは最近そういう傾向がトレンドらしいと聞くけれど。以前よりジェンダーについてもセクシュアリティについてもボーダーがはっきりしていなくて、グレーゾーンが増えているみたいだね。

私もこのストーリーラインはとても良いと思った。じつは実際に私の友達の間でも、男性になった元女性が、異性愛男性じゃなくてゲイ男性になったっていうケースがけっこう多いんだ。女の身体を持っていたとき、恋愛対象は女だったのに、男になってから、男と付き合うようになった。バイセクシュアル男性や、他のFtMトランスとかと付き合いはじめたっていうね。私たちがレズビアンなのは、“自分と同じジェンダー(同性)と付き合いたい”という意味なのか、それとも“自分が男になっても女でいても、女性の相手と付き合いたい”のか、だよね。

――男に生まれ変わったら、それでも女性と付き合うのか、それとも同性である男性と付き合うのか…。本当に興味深い問題だね。あと、いままでレズビアンとして女性と付き合っていたのに、FtMと付き合ったら、その人はそれでもレズビアンなのか、それとも異性愛なのかっていう議論もよくあがるけれど。

私の周りにもそういう人、いるよ。友達でレズビアンなんだけど、その子はいまFtMトランスと付き合っていて、クィアコミュニティの中でもそういうカップルの存在があまり可視化されていないように感じているらしい。“そういう人はクィアなのか、ストレートなのか”っていう。でも私は、彼女たちはまぎれもなくクィアだと思うよ。いままでレズビアンだったのに、FtMトランスと付き合ってからいきなり、“じゃぁストレートになった”っていうのはなんか変だと思うし(笑)。

『Lの世界』のストーリーで何が良いと思ったかっていうと、マックスはずっと女の子も男の子も両方好きだったんだよ。でもホルモン治療前は、女性の体で性的にも女性らしい行動を求められるのが耐えられなかったから、タチの役割を求めてくるような女性としか付き合わなかったの。でも、ゲイ男性と付き合うのは、そういう女の子と付き合う以上に彼が“自分は本当に男性なんだ!”って気持ちにさせてくれるから、シーズン3のビリーや、シーズン5のトムと付き合えたんだと思うよ。

――ビリーとのシーンは『Lの世界』で私のお気に入りシーンのひとつだよ! 実際にそれを演じるのはどうだった?

ビリーを演じる俳優、アラン・カミングはもともと友人でもあったから、とても楽しかったよ。ドラマが始まる前、ニューヨークに住んでいたときからの友人なんだ。あのエピソードの監督は、アル・パチーノ主演の70年代のハリウッド映画『Dog Day Afternoon』の脚本家フランク・ピエールソンだったの。『Lの世界』ではだいたい女性の監督が撮影を担当しているのに、そのときはストレートの男性で、しかも大物監督だったから、あんな激しいセックスシーンを演じるのにはとても緊張したよ(笑)。でもフランクは最高だった。私がアドリブでアランをバーのカウンターの上に抱き上げたりして驚かせたんだけど(笑)、本当に良い仕事だった。たくさん笑ったよ、あの日は。

ダニエラ・シー

――衣装デザインを担当したRIGGED Out/fittersのパリサ・パルニアンも、インタビューであのシーンがフェイバリットだって教えてくれたよ(笑)。撮影現場ではどの女優と一番仲が良い?

そうだね。友達の集まりというよりも仕事の環境だと捉えているから、皆と普通に仲良いんだけれど、シーズン4から出演のジョディ役のマーリー・マトリンやキット役のパム・グリア、ヘレナ役のレイチェル・シェリーとは特別仲が良いかな。レイチェルは本当にスィートで素敵な女性。現場では彼女たちといつも一番一緒にいるかな。

――個人的に一番好きなエピソードは?

俳優として演じ甲斐がある、マックスの職場でのシーンとか彼の仕事に関係するエピソードが比較的好き。あと、シーズン3冒頭のマックスとジェニーのロードトリップのシーンも楽しかった。野外ロケで演じていたから、映画撮影みたいで新鮮だったよ。パーキングでのゲイバッシングのシーンわかる? あれもとても気に入っている。

――あれ良いよね! パーキングエリアでマックスに絡んでくる奴らに対して、ジェニーが“we’re not fags, we’re dykes asshole(ホモじゃないんだよ、ダイクなんだよ、バーカ!)”って言うのがスカッとするね。当時あのセリフをきいたときは格好良すぎて鳥肌がたったよ(笑)。来年の1月に放送される最終シーズン6について何か教えられることある?

具体的にはまだ何も知らないんだけれど、マックスのストーリーがもっと掘り下げられるってことを聞いている。いままでと違う方向にも行ってみたいかもって。

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