第22回東京国際映画祭・クィア映画ピックアップ

By Hisako Kondou


第22回東京国際映画祭

2.所々にトム・フォードの実体験が散りばめられている作品

誰もが魅了されるグッドルッキングで、“最もセクシーなゲイ”とも称されているトム・フォード。事実、学生の頃にはそのハンサムな容姿を生かし、CMに出演するなど俳優を目指していたことはあまりにも有名な話。また、ファッション界に進む前には、同じくゲイをカミングアウトしているファッション・デザイナーのマーク・ジェイコブスなども輩出した名門校パーソンズ・スクール・オブ・デザインでインテリア・アーキテクチャー(建築)を学んだというユニークな経歴を持つ。94年にはグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任し、ほとんど破産状態だったグッチを見事蘇らせた偉業は周知の事実。01年には、イヴ・サンローランのクリエイティブ・ディレクターにも就任し、ファッション界での地位を不動のものにした。

05年には、自身の名前を冠したデザイナーズ・ブランドを立ち上げたのと同時に、映画製作会社「Fade to Black」を設立。そして、つねに未来へと生き急いでいるファッション界ではなく、“今”生きていることを感じられる精神的な充足を求めて映画界への進出を果たした。ファッションでの成功に留まることなく、新たなキャリアをその華麗なる遍歴に加えることになった。既にデザイナーで物質的な成功を得ていたトム・フォードだが、「100パーセント幸せではなかった」という。また、「ファッションがコマーシャル・アートなのに比べ、映画は純粋な芸術として捉えている」とフォードは公言。敏腕ビジネスマンであるにも関わらず、ビジネスを超えて映画に対しては一線を画しているのだ。

そんなトム・フォードが、積年の想いを込めて監督第1作目に選んだのが『A Single Man』。ゲイをカミングアウトし、自伝的な作品も発表している小説家、クリストファー・イシャーウッドが1964年に出版した小説を基に映画化に挑んだ。「自分のセクシュアリティについてはそんなに重要視しない」と公言しているトム・フォードだが、この小説で気に入った点は、ゲイを問題視せずに、「自然に、普通のこととして描いている」ところだという。

ゲイを主人公にした作品が少ない当時にしては画期的な内容だった本作は、1962年のアメリカ・ロサンゼルスを舞台に、事故によりパートナーを失ってしまったゲイのイギリス人教授、ジョージの1日を情感たっぷりに描く。そしてこの映画では、主人公のジョージというキャラクターは原作と同じだが、すべてジョージの頭のなかで起こっている設定の小説とはエンディングが異なり、まったく別のものとして制作されている。イシャーウッドが意図しているストーリーの核はそのままに、オリジナルのシーンやエピソードをトム・フォード自身が創り出した。ノスタルジックな雰囲気を醸し出す女の子、ハスラーの青年、銃の店など原作に出てこないキャラクターや場所も登場させ、全体的な設定も原作とはかなり異なって映像化された。

また、トム・フォードのパーソナルなアイディアや実生活と関わる要素が細部にまで行き届いているのも、作品のオリジナリティと遊び心が伺える。たとえば、映画のなかでファルコナーという名前をキャラクターの名字に使っているが、それはイアン・ファルコナーという劇などのコスチューム・デザイナーでトム・フォードのファーストキス&ボーイフレンドの名前に由来している。

映画のエピソードでは、幻覚剤のメスカリンを飲んで眉毛を剃るという、実際にトムとイアンが付き合っていた当時に経験したことが引用された。さらに、トムの20年以上の長年の交際相手でファッションジャーナリストのリチャード・バクリーもカメオ出演をしている。

ちなみに、そのパートナーのリチャードについては、フォードは以下のように熱く語っている。「リチャードのソウルにとくに惹かれた。彼とはすぐにセックスせず、最初はずっと喋っていた。出会って一ヶ月後に同棲した。アメリカ全国で結婚ができる日には、彼と結婚したい。同性婚自体には、そこまでこだわらないが、ただ単に権利が欲しいので、パートナーシップで充分」

また、主人公のジョージと女友だちのシャーロットの関係は、フォード自身の実生活でのストレートの女性との友情や関わり方を反映させているとのこと。そして、シャーロットのキャラクターはフォードの祖母をモデルにしているため、彼女が登場するシーンはフォードにとってとてもパーソナルなものだと語っている。

そんな、トム・フォードのオリジナルの創作やプライベートな要素が絶妙に散りばめられた『A Single Man』は“喪失”“孤立”“拒絶”“ロマンス”“愛”などをテーマに、人間の本質をリアルに浮き彫りにしていく。トム・フォードは本作に対して、「ただ人生の大切なものを描きたかった」、そして失った後に見えてくる人と人の関わりや心と心が触れ合うきっかけを伝えたかったとコメントしている。まさに“今”という時を生きることや、他者と心を通わせること、そして誰もが感じる孤独や、人生において何が最も大切かを理解しようとすることについて描かれた。


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