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7.作品のちょっとしたユーモラスなエピソード
また、トム・フォードが伝えたいメッセージやユーモア、そしてプライベートなつながりや思考は、作品のちょっとしたエピソードから垣間見られる。
たとえば、劇中で様々な作家の本が印象的に使われている。主人公のジョージとパートナーのジムが向かい合って読書をしているシーンで、ジョージが読んでいるのは同性愛がテーマと言われているカフカの「変身」(ちなみにカフカもゲイと言われている)、そしてジムが読んでいるのがアメリカの小説家でゲイとして知られているカポーティの「ティファニーで朝食を」。原作にはジョージが本を読むシーンはないのだが、映画ではその後にジョージが寝袋に潜り込んで眠るシーンがあり、寝ている間に主人公が巨大な虫に変身するカフカの「変身」を思い起こさせることから、ジョージに「変身」を読ませたとのこと。クィアな作家とクィア色の強い作品からインスピレーションを受けたフォードのユーモアたっぷりの演出が光っている。
さらに、トム・フォードは、ジョージの生活は、自身の日常生活とよく似ているとも語っている。犬の散歩についてのジョージとジムの掛け合いのシーンは、フォードが一緒に暮している(恋人の)リチャードとのやりとりが反映されているとのこと。
また、「死に装束のネクタイの結び方はウィンザー・ノット」というこだわりも、トム・フォードのアイディアで、さらに主人公が劇中で遺書を書くシーンでは、実際のフォードの手と筆跡が撮影された。「コリンが書く字よりも自分の書く字のほうが好きだったから」と細部にまで自身のこだわりを貫いている。
そして、中年男性の抗えない性がおかしくもせつなく表現された本作は、ゲイをオープンにしていたイタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティなどが描いていた世界観にも通じるものがあるのでは。ゲイのパートナーを失い、失意のどん底にいる中年の主人公が悲しみのなかでもがきながらも、一方では色白の文学青年に惹かれるだけでなく、また一方ではジェームス・ディーンを真似ているワイルドな陽焼けしたスペインの青年に惹かれる。人間として抗えない性がリアルに描き出され、ひとりの人間の孤独、そして愛が浮き彫りになってくる。
そんな生きていく上で感じずにはいられない欲求に翻弄されつつ、精神的な抑圧や解放など、相反する感情に葛藤する主人公の人間的なキャラクターに惹きつけられる。そして、トム・フォードは、「この映画は本当に重要で、自分のソウルを全て入れ込んだ」とまで言い切るほど、自身の姿や思想そのものをありのまま反映させた。そんな真摯な姿勢やメッセージが細部から伝わってくる演出からは、トム・フォードのアーティストとしての才能を証明するだけでなく、改めてひとりの人間としての唯一無二の魅力と、その磨き抜かれたセンスのよさを知らしめる。
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